モムゼン教授ご逝去を悼む
雀部幸隆
2004年9月22日
本年9月6日に大分大学の嘉目克彦教授から、ヴォルフガンク・J・モムゼン教授が本年8月13日オストゼーで海水浴中に心筋梗塞で逝去されたと、のお知らせを頂いた。教授は1930年生まれであるから、誕生日を終えておられたのなら、享年74歳、終えておられなかったのなら73歳、いずれにしてもまだこれからというお年であった。筆者はモムゼン教授のウェーバー政治思想研究の基本的コンセプトを批判する巡り合わせとなったが、教授の代表的著作『マックス・ヴェーバーとドイツの政治 1890-1920年』は、多くの未公開・未知の資料の精力的な発掘収集にもとづき、修業時代から死に至るまでのウェーバーの政治思想の歩みを彼の他の学問分野における多方面な活動と突き合わせて総体的に分析した大著であって、筆者をも含むドイツ内外の後進の研究者にとっては、ウェーバー政治思想研究の大海に漕ぎ出すさいには不可欠な詳しい海図の役割を果してくれたものである。この大著がウェーバーの政治思想といえば必ず引き合いに出される標準的労作とされたことは故なきことではない。教授はその他のウェーバー研究の分野においても多くの業績を残されたが、とりわけ重要なのは、現在ドイツで刊行中の『マックス・ヴェーバー全集』の編纂において指導的役割を果されたことであろう。もちろん、そのなかにはいわゆる「経済と社会」戦前草稿刊行にあたっての教授の編集方針に対するわが国の折原浩教授の根底的な批判のあるものも含まれており、筆者もまた折原教授の批判に基本的に同意するものであるが、『マックス・ヴェーバー全集』全体の刊行に責任編集者として尽くされた教授の功績は、国際的なウェーバー研究のみならず社会科学研究の進展にとっても、多大なものがある。ここに遅ればせながら、つつしんで教授の生前の大きな学問的功績をたたえ、教授のご冥福を心からお祈りする次第である。